「RANDEBOO」ディレクター、SEIKAの諦めてきたこと。完璧なイメージの裏にある無数の失敗。

「RANDEBOO」ディレクター、SEIKAの諦めてきたこと。完璧なイメージの裏にある無数の失敗。

「弱音を聞いたことがない」 「まじで1日中ずっと仕事してる」 「ちゃんと休んでるのか心配になるぐらいです」 周囲から伝え聞く彼女の評価は、ことごとく清い。本人が“完璧”だと思われることが多いと話すように、皆、口々に彼女を称賛する。 Instagramに載せられた写真は品の良さや健康的な印象を与え、YouTubeの動画では友人や会社の仲間と過ごす充実した日々が垣間見える。 10数年前にトイレで1人、涙を流していた少女の面影はどこにもない。

     

    劣等感の幼少期、救いになった父の言葉


    2016年9月に札幌でアパレルブランド「RANDEBOO(ランデブー)」を立ち上げ、以来同ブランドのディレクターをつとめているSEIKAさん。

    凛とした佇まいも印象的で、その生き方や考え方に共感するファンも多い。春から始動したオンラインコミュニティ「7sense(セブンセンス)」一期生の数は200人を越えた。

    そんな彼女が笑いながら語る、幼少期のほんのり苦い思い出。

    お姉ちゃんは傍目に見てもすごく可愛くて綺麗な人で、よくまわりから褒められてたんです。例えば親戚の集まりとかでもそう。一方の私はトイレで泣いたりしてて。

    お姉ちゃんの制服やランドセルを与えられて、「なんで?」って泣いたこともあって……だからかな、子どもの時は本当に自信がありませんでした。

    姉のことが嫌いなわけではなかった。でも、抱いてしまった劣等感は、ちくちくと彼女の何かを突っついた。

    モヤモヤとした気持ちが胸の中に渦を巻く。

    「私には何もないのかな?」

    そんなことはないと、丸まった背中を叩いて押してくれたのは父だった。

    そんな私をどこかで見てたのか、お父さんがずっと励ましてくれてたんです。「お前は天才だ!」「いけるぞ!」って言って(笑)。嬉しかったな。

    何か武器を身に付けさせたかったんでしょうね。いろんなことをやらせてくれて。ゴルフや釣り、父が言ったことは全部やりました。モデルをやっていたのも父の薦めです。

    まあ、私が知らないところでお姉ちゃんにも「お前は天才だ!」って言ってたんだろうけど(笑)

    どれぐらいの時間がかかったのだろうか。

    モヤモヤはいつしか消えて、代わりに父の真っ直ぐな言葉が胸の中に響く。

    丸まっていた背筋は伸び、うつむきがちだった顔も上がり堂々と振る舞えるようになった。根拠はないけど自信はある。それは何よりの原動力となる。


    ネガティブな感情があるから頑張れるとこはあるかも? 

    私けっこう根に持つタイプなんですよ。「ランドセルお姉ちゃんのお下がりだった!」って今も言ってるぐらいだから(笑)

    幼少期のSEIKAさんにとって、6つ歳が離れた姉は羨望の的であり、子供心に嫉妬を覚える相手だったかもしれない。

    時が経ち、姉は今、RANDEBOOのメンバーとしてSEIKAさんと一緒に働いている。家族であり、自分を支えてくれる大切な存在だ。


     

    私は失敗もめちゃくちゃしてる。でも、だからこそ──

    SEIKAさんは何でもまずはやってみる。

    父の薦めでやったことは数知れず。今も親しい友人の何気ない「これやってみたら?」を二つ返事で受け入れる。

    そして何でもやるからこそ、これまでに諦めてきたこともたくさんある。

    小学生から7年間打ち込んだゴルフは、「一打で全てが変わるプレッシャーに勝てなかった」。

    14歳から始めて高校卒業まで続けたモデルは、「何かが違うかもしれない」と自ら離れた。

    モデルを諦めた後は女優になると決めて東京へ行ったけれど、あえなく「ここでは一番になれない」と悟った。

    何か目的があるわけでもなく、やりたいことも定まらず、進学もしないまま高校卒業を迎えて数ヶ月。全力で何かに取り組むことはなく、どこか宙ぶらりんな日々を過ごした。

    ただ、何かをやり遂げられなかった自分を否定はしなかった。「それができないのが私で、その個性は潰したくない」と。

    何より経験のすべてを糧にしてきた。

    ありがたいことに「センスがあるね」って言ってくださる方が多いんですけど、見せてないだけで、陰でめっちゃ努力してるんですよ!

    センスって元から持っているものではなく、成功と失敗をたくさん知ることで得られるものだと私は理解してます。

    私は失敗もめちゃくちゃしてる。でも、だからこそ今の私がいるんだと思う。


     

    山本正華からSEIKAへ。誰も知らない1人の朝。

    SEIKAさんは何でも、辞めることをいとわない。

    何でもまずはやってみて、合わないと感じたら潔く辞める。捨てることを躊躇しない。執着しない。


    そして何でも捨てられるからこそ余裕が生まれ、常に“新しいこと”を取り入れられる。

    この繰り返しのなかで成功と失敗を反芻し、自分なりの“良い感じ”を見つけて、それを大事にしてきた。

    例えば、去年から続けている朝のルーティン。気恥ずかしくて誰にも言ってこなかったそれは、「合掌から1日をはじめてみよう!」というもの。どういうわけかは自分でも分からないが、これだ!と直感したんだとか。

    起きてすぐに窓際に立って、カーテンを開けて日を浴びて、ちょっと伸びをして。そして外に向かって合掌するの(笑)

    言葉にするとすんごい変なんだけど、「今日もありがとうございます」って気持ちになれるんです。

    朝は自分のリズムでスタートしたいから、起きてすぐにスマホを触らないようにしてます。


    季節によってはまだ外が薄暗いなかリビングへ。定位置の椅子に座って、お気に入りの音楽を聴きながら英語を勉強する。

    程よいタイミングでPCやスマホで連絡を返し、ちょっと慌てながらメイクの時間。

    着ていく服を決めたら、出掛けに眼鏡を選ぶ……というより「手前にあるやつをばっと取って家を出る(笑)」。

    ただし、出社する頃にはスイッチが入る。今日もまた、山本正華からRANDEBOOのSEIKAに切り替えて1日を始める。

     

    知らない世界に飛び込む。あの日のように。

    SEIKAさん、実はかねてから、海外移住を検討しているのだとか。

    今の段階で具体的な話があるわけではないそうだが、「いずれチャンスがあればしてみたい」とのこと。

    それはRANDEBOOにとっても、彼女の人生にとっても大きな“新しいこと”になるはずだ。

    知らない世界に飛び込んで、より多くの成功と、そして失敗を経験する。

    その刺激は、幼い頃に、大人びた服や小物が並ぶ姉と母のクローゼットを開けた時に感じたワクワクを思い起こさせるかもしれない。

    自分の知らないセンスに触れる瞬間だったあの時を。

    いつだったか、小学校に姉のヒールを履いて行って怒られたことを笑いながら話してくれたSEIKAさん。

    将来、海を渡る時が来るとして、その時も彼女はヒールを履いて小学校へ行ったあの日のように、前のめりになって、何かしでかすかもしれない。

    そしてそのことを、また笑いながら語ってくれるのだろう。




    文:Yuuki Honda

    編集:Takumi Inoue / Nami Nakagawa

    写真:Naohiro Sawada

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